芝田勝茂の単行本 作品紹介

進化論

芝田勝茂・作、ワキサカコウジ・画、発行・講談社

[ISBN] 4-06-212465-3

2004年6月10日 発売 ¥998(税込)

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= あらすじ =

大学院生・祐介が家庭教師をしている少女・美紀が妊娠した。しかも、「処女懐胎」。生まれてくる子は、「神の子」といいはる美紀に、とまどう祐介。はたして本当に「神の子」なのか?それとも、人類とは異なる「なにか」なのか?人類の未来を暗示する衝撃の近未来SF小説。

まぼろしの近未来SF、7年目の復刊!

ヤングアダルトのシリーズに加わる。

= PostScript =

1997年7月刊行の『進化論』(絶版)が、講談社の新シリーズの1冊として7年ぶりに復活。いちどは絶版になった単行本8冊中、これで5冊が復刊されたということになります。一時は書店に出ているのが数冊、なんて時代もあったのだから、買おうと思えば芝田作品がなんと11冊も書店にある!というのは、これはものすごいことであります、しかもわたしのようにハードカバーしか出てない図書館オンリー児童書作家にとっては、今回の『ふるさとは、夏』や『進化論』のように手ごろな値段で手にとりやすい文庫or新書版は、子供達に気軽に「読んでね」とすすめられるのでうれしいことかぎりなしです。 さて、7年ぶりの『進化論』。当時はかなり激しい、と思われる部分もあったのですが、今読むとちっとも激しくなくて、あたり前のことをいっているように感じます。7年前(じつは書いていたのはそのさらに数年前になるが)に孤独にじぶんだけが感じていたことが、今はすこしは多くの人と共有できるようになったということでしょうか。

新人類の誕生、ということは、そのまま旧人類、つまりわたしたちの滅亡、ということになるわけですが、その<悲劇>を、どう描くか、というところで、<環境>問題をからめた世界規模の対立、という図式を描いてみたわけです。けれど、この図式は、現代では<現実に存在する宗教(キリスト教、イスラム教、ユダヤ教>というものをどうとらえるかということにかかわらざるをえなくなっています。つまりこの作品はあくまで9・11以後ではなく、それ以前の作品なのです。逆に、それだからこそ、あと50年もすればこの作品の描いたものがまたしても現実に近づく可能性だってあると思っています。 劇作家さねとうあきらさんが、「チクショー!」と、作家としての<嫉妬>をお手紙くださったのが、この作品へのわたしの誇りでしたが、今読むと、なにかどの一行もけっこう啓示めいていて、うなってしまうところがありました。こんな物語、どうやって生まれたのかな、と不思議です。文章が難しいのですが、今回はかなりルビがついているので、中学生も読めると思います。他のYA!シリーズとは若干異質ですが、このシリーズは読み応えがある作品ばかり、その1冊に加えられたことも嬉しいことです。 もちろん、今後は書き下ろしでYA!に参加していきたいと思っていますよ。