マジカル・ミステリー・シャドー
芝田勝茂・作、小松良佳・画、発行・学習研究社
[ISBN] 4-06-195626-4
2003年3月 発売 ¥1,260円(税込)
- = あらすじ =
- 学校の成績がオール2のマコトが、新しい塾に通い始めたとたん、テストで100点連発。秘密は自分が学習するのではなく、自分の影に学習させるという塾の指導方法だった。上級クラスに上がるマコトは、次第に人格が影の自分に取って代わられていってしまう。
- = PostScript =
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以前からあたためていた、『影の教室』を230枚の 中篇に。小松良佳さんの絵も楽しい。 小学4〜6年生のみなさん、ぜひぜひ読んでみてください。
これまで『読み特』の短編しかやったことのない学研からの依頼で、高学年向け「ミステリーファンタジー」をやってみようということになった。しばらく、『サラシナ』以後のスランプ状態だったので、とても楽しい仕事になった。
画家は、今回が初めての小松さん。指輪物語の好きな方である。マコトやゆりを、すてきなキャラに仕上げてもらった。
考えて見れば「教育」を子どもの目線から、というテーマはわりと初期の『あしたへ、アイドル!』あたりからあって、『星の砦』でピークをむかえる。これもその流れ、ということがひとつ。もうひとつは、『じぶんのなかのもうひとりのじぶん』というテーマである。こちらは、『ドーム郡ものがたり』にその萌芽みたいなものがあり、『きみに会いたい』がやはりピークにあたるだろうか。さらに「全体主義への恐怖と抵抗」という、児童文学にはめったになくて芝田勝茂を特徴づけているテーマとなると、もちろん『夜の子どもたち』や、『進化論』がピークであるわけなのだが、それらをいかに今のこどもたちに伝えるのかということで<物語づくり>をしているのだなあ……と、書いてしまって、本になった作品を読みかえして思うわけです。じぶんで解説してますが。だからそういうわたしの<流れ>が嫌いな方は、やっぱり読まないほうがいいです。なんといわれようとわたしは書く。それがおもしろい、とか、それはおもしろそうだという方、ぜひぜひお読みください。
- = 書評 =
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ゆとりの教育」が叫ばれている一方、成績の優劣は、あらゆる場面で子どもたちにつきつけられている。心の温かさや寛容さなど、人がさまざまな長所や美点をもつことは、子どもにもわかっているはずだが、常に目の前に一つのものさしをちらつかされていれば、それを使うようになるのは当然だ。
はじめは半信半疑だったマコトだが、成績がぐんぐん上がるにつれ、マジカル学習塾にのめり込んでいく。ところが次第に、本人に代わって、冷たく自分本位な影の人格がマコトを占めるようになってしまう。
クラス一美人の春奈に話しかけられたり、一緒に入塾したゆりとともに特待生になるとともについたマコトの自信は、過去の自分への嫌悪に変わっていく。自分を否定する度合いが特に強いマコトとゆりの成績が突出して上昇するのは、成績という唯一の価値観に突き進むことへの皮肉をはらんでいる。(産経新聞4月26日)