2005年08月22日
★『パスワード風浜クエスト』(松原秀行 講談社青い鳥文庫)

読むたびに羨望を感じるのは松原秀行さんだ。毎回毎回どうしてこんなに面白い情報を提供できるのだろう、どうしてこんなにみんな生き生きしてるんだろうと感嘆しながら読みすすんできたパソコン通信探偵団事件ノートも、8月15日発売のこの作品でシリーズ19作目(番外編など含む)というからすごい。
最近は問題を解いたときの快感もどんどんアップする。これは読者に勝負を挑んでいる典型的なミステリーで、挑まれている読者よりもさらにさらに進化している作者に、みんな歯軋りして地団駄踏んでいるにちがいない。でも、いつもはいくつかの謎はパスするどじな読者もどういう風の吹きまわしかなんとか対等にたたかえたゾ!と安心していたら、こんどの『パスワード風浜クエスト』はニ段構えになっていた。
「風浜クエスト1」と「風浜クエスト2」の二部構成なのだ。じつはその1は、わたしにとっても、みなさんにとってもびっくりのことがp41にあって、それだけでも特記すべきなんだけど(それが何かはお楽しみ〜〜!ファンタジー作家のコラボレーション!?)、「その2」のすばらしさは、これはもう読んでいただかねばわかりません。これまでのパソコン通信探偵団とはちょっと趣が異なって、ヤングアダルト、そして中身の濃さに、わくわくしっぱなしでした。なんとアルチュール・ランボーが出てくるのです。そしてランボーに惹かれた青春が描かれるのです。松原秀行さんの引出しの多さには、毎月飲んでいても驚かされることばかりですが、こんなの読まされると、たまりません。たとえば高校の文化祭のとある屋台に立てかけられたふだに、「夜の左へ猫」と書いてあった、というエピソードからあなたはどんな物語を想像します?この短い句のすてきなこと。こんなのが、いっぱいちりばめられたすてきな文学ピクニック。それがこんどの『風浜クエスト』。
そうそう、まゆぞうさんもブログで初期のパソコン通信探偵団事件ノートをとりあげてました。こちらもぜひお読みください……と勝手にリンクしときます。

「365色の色鉛筆」
http://mayu.livedoor.biz/archives/50010308.html

2005年08月14日
★お祝い会(Part)

8月10日のお祝い会については掲示板に書いたのだけれど、ここにものっけておきます。話が見えない方のために補足すれば、世の中にはソーシャルネット・ワーキングサイトなるものがあり……つまり会員制のネット空間、ということですか、完全公開のここのようなwebとはちがって、知り合い同士の輪を大きくしていく、ようなところなのですが、そこに芝田勝茂ファンが集う場所があり、そのメンバーを中心に何かをたくらんでいた、らしいのでした(笑)。わたしはそんなことはつゆ知らず、いつもの作家同士の飲み会へと出かけたのでありました。そしたら……というわけです。

★出版記念パーティーなんてやったことがないよ、と、実はそんなことほんとは嫌いなくせにいっていたら(困ったやつだ)、松原秀行さんが「じゃあこんどね!」と、『真実の種、うその種』出版記念お祝い兼飲み会しましょう、といってくださって、それが8月10日。まあわたしの本だけじゃなくて松原さんのパスワードも新しく出るし、Mさんのご懐妊とか(笑)いろいろお祝いね、ってことで阿佐ヶ谷のお店で、松原さん、長崎さん、みおさん、といういつものファンタジー作家同盟(笑)に加え、版元小峰書店編集者、ほかに講談社(大きな花束ありがとうございました!)やあかね書房の編集者、解説を書いてくださった野上さん、そしてなんと作家石崎洋司さんも来て下さって、にぎやかなパーティーになりました。松原さん「続くよね」野上さん「これでは終われないだろう」などなどみなさんからあたたかいことば(恫喝?)を頂いて、舞い上がってたところへ、saoriがなんだか大きな荷物を抱えて登場。「じぶんで開いて、おやぶん!」それはりっぱな木箱で、中には巻物、黒くて大きくて重いアルバム、軽いけど中にぎっしりいろいろ書いてあるノートのようなもの、さらに宝石箱、そしてポスター、ハガキ。「ファン一同」ということばが目に入って、まだひとつも開かない先からううう……「おお、生きていればこんなうれしいこともある」というせりふなんかがアタマの中を駆け巡りました。まず、ずっしりと重い『真実の種、うその種』の感想!そしてカラーのイラストが入ったアルバム。おお、中ニ作家志望さんの詩まで入っている。長い長い感想。でももったいなくてすぐには読めない。手作りのハガキはなんと「出版記念販促ハンドメイドポストカード」ふるえる手で長い巻物をひもとけば、これは「ドーム郡復刊に関する『近況』のまとめ」。「時間の木」3年間の歴史がひとつの巻物に!そして、宝石箱にはアイザリア文字の彫られたペンダントが銀色に輝いて!こ、これをわたしに!?もう1冊「出版記念企画参加者名簿」は、これらの宝物をつくってくださったみんなの自己紹介や『ドーム郡』との出会い、好きな作品、わたしへのメッセージ。掲示板の常連さんたちや、うれしかったり、なつかしかったりする名前の数々……umeさん、えこさん、エミさん、桂さん、saori、ざぼんさん、真。さん、chuuさん、中ニ作家志望さん、なおのことさん、那智さん、ねろりさん、巨人優勝さん、まゆまゆ、みーやさん、るみさん、Regulusさん、たかかずさん……。
みんな、ありがとう。世の中にこういうことばがあってよかった。どんな豪華な出版記念パーティーがあっても、こんなに気持ちをこめたありがとう、ということばはいえないと思いました。二度と「やってもらったことがない」なんていいません。みんなとすごせたんだもの。こんなに楽しかった夜を忘れません。ああ、朝だ。会社に行かねば。二日酔いだ。でも頭痛だって今日は心地よい。もういちど、みんな、ありがとう!!!!

★……とまあ、以上のようなことがありました。大きな箱には、『ドーム郡シリーズ完結編 『真実の種、うその種』出版記念企画 記念贈呈品 2005.08.10』というタイトル。木箱は、さすがに映画の美術・持ち道具のプロであるsaoriらしく、見事な装飾もほどこされていました。宝物。家宝。アルバムには「敬愛する作家 芝田勝茂に捧ぐ」というタイトル。そして、上記の方々のメッセージ入り名簿。
★当日来れなかった某社の編集者はこれを読んで「すてきな贈り物、読んだだけで感動しました。作家さんて、やっぱり最高に素敵なお仕事だ……。」というメ?ルもらいました。もしもわたしが大作家で、死後に「芝田勝茂記念館」なんてのがあったら、きっとこの宝箱が飾られるでしょう……やだやだ。やっぱこれも棺に入れて燃やしてね(爆)。

2005年08月05日
★僕の叔父さん網野善彦 (中沢新一/集英社新書)

野上暁さんたち出版界有志による「ムダの会」発行「いける本、いけない本」(2号)のなかで一押しだったのがこの本。中沢新一が幼少のみぎり、伯母の婚約者としてやってきた網野善彦。「よしひこ」を「おしっこ」と聞き違えたほほえましいエピソードから、中沢家のひとびとと網野善彦との交流がはじまる。網野が中世における下層民の構造をとらえかえし、「網野史学」を形成していった思想の変遷の裏には、中沢家のひとびと(すなわち新一の父、厚と、その弟である護人、そして次第に成長していく新一)と網野との、こんなにも真摯な、そして純粋でうつくしい対話と交流があったのだ。いぜん、江藤淳が「夏目漱石論」のなかで、「猫」が、明治後期の<インテリゲンチャ共同体>を描いた作品である、と書いていて目からウロコが落ちたことがあったが(学生の頃でございます)、この本に登場するひとびとの思想にまつわる語らいの面白さはどうだろう。色あせた「中ソ論争」でさえ、かれらにあっては<農業共同体>的発想と<科学技術>の可能性、という、いってみれば世界の未来に関する議論にまで昇華されていく。あるいはあの佐世保闘争で<三派系全学連>が機動隊と衝突し、投石するニュースに接して、かれらは学生たちの<投石する>行為に、ある原初的な、始原的な意味を感じ、衝撃を受ける。「かれらは何に対して石を投げているのか?」そして、新一の父、厚は、そこから一冊の本を上梓するまで、その行為について考えぬくのである。……最後の網野善彦との別れなど、思わず涙してしまう。
じつはこの本に登場する中沢新一の父、厚の本「つぶて」(法政大学出版会)を、わたしは20年前に読んでいたことを、あざやかに思い出した。
ドーム郡シリーズの2巻目、「虹へのさすらいの旅」(現在は「虹への旅」)を書いていたとき、<武器を持たぬ>ドーム郡のひとびとが手にする武器、それが<石投げ>だったが、その「投石器」について調べていたとき、もっともすぐれた本のひとつがこの「つぶて」だった。ちょうどドーム郡シリーズが完結した今、この本を読むことができたのも何かの縁のような気がする。

「あら、それは投石器」
「そんなぶっそうなもんじゃないさ。」(『真実の種、うその種』より)