2004年1月17日
★「あのときわたしの小学生ファンだったきみ」★

世の中には小説のような話がいくらでもある。もしかしたらこの子もほんとに作家になってしまうかもなあ。と、最近掲示板にやってくる「小学生作家志望」さんの才能にあふれる書きこみを見て思っていて、ふと、「そういえば……」と思い出したことがあった。やはり小学生で、帰国子女で、ピアスしてるとかいう読者からの手紙をもらったことがあったぞ。そんなに昔のことではない。7年ほど前……だったら、今はちょうどsaoriと同い年くらいか。そういえば、昨日だか芥川賞をとった女性作家も、19才と20才だといってたっけ。……ん?

あったあった。『きみに会いたい』についての読者からの手紙の束の中に。この鉛筆書きの手紙。うれしかったからとっておいたんだよね。大学ノートの紙にびっしり書いてある。裏に『You are the man who I admire from my heart』(あなたはわたしの心から尊敬する作家です)という英語。小学生がこんな見事な英語を書いている、ということでまず驚いた。それから本文が、『Dear great Novelist』からはじまる。『偉大な小説家どの』……こんなことをいわれたのも生まれてはじめて。
……そこには、ふと図書館で見つけた『きみに会いたい』を読み終えた彼女の<衝撃>が率直につづられていた。読み終えて30分ほど放心していた、という。主人公のように、彼女もまた<コドク>だったからこその感想だろうと思う。そして、当時の彼女の友人との生活がこれまたありのままに描かれ、小学生としてはあまりにもコドクな日常(上級生に目をつけられたり高校生にまちがえられたり)、自分も小説を書いていること、そしてさらにわたしの他の作品(『星の砦』『夜の子どもたち』)への言及などがあり、その内容の濃さに驚く。

きみはもう忘れているだろうけど、その昔、きみがファンだった児童文学ファンタジー作家からもひとこといわせてください。

金原ひとみさん、芥川賞最年少20歳での受賞、おめでとう。

2004年1月2日
★夢と虹★

あけましておめでとう。

わたしがいまやっている仕事についてすこし。
わたしは、もしかしたらちょっと変わった仕事をしている。それは、<夢>のなかから、<虹>をとりだす、という仕事。<夢>は、ひとりで見るものだ。どんなにすばらしい夢でも、悲しい夢でも、それは誰とも分かち合うことができない。たったひとりしか見ることができない<夢>を見るのではなく、だれもが見ることができる<虹>を描くこと。<夢>のなかから、<虹>をとりだす作業。それが、わたしの仕事だ。ただ、だれもが見る<虹>にしたって、角度が違えば、あるいは見るもののこころの状況によっては、その美しさも壮大さもまるで異なるものになる。でも、それはもういい。そのことは、見るものにまかせればいい。とりあえずは、<夢>のなかから、そおっと<虹>を取り出す作業をしなければならない。これは針の穴に糸をとおすようなところがあってけっこう細やかな神経や、やわらかな手先や、たいそうな集中力を必要とする。大雑把な性格のわたしがもっとも苦手とするところだ。ところが、あるところでは、思いきり大胆にならねばならない、そして人が変わったように明るくのびやかに、そしてだれよりもおおらかに、あるいは勇気を持って歩かねばならないようなこともある。相手は<夢>という、魔物の棲む沼のような場所だ。そこからとりだすものは、かたちのない<虹>というふしぎなものだ。だから、「取り出せた!」と思ったら、てのひらに残っているのは、なんのことはない、ただのぼんやりとした空気だけだったりするのだ。これではだれにも見せられない。でも、時にはちゃんとしたかたちが、つまり<虹>のかけらが、ちゃんとある。でもものすごく小さいかけらだったりする。これでは虹になるまでに数万年かかってしまうよ、というようなものだ。そんなような、仕事を、わたしはしている。なんだ、わたしだけの変わった仕事ではないな。あなたもやっている仕事だった。

今年もよろしく。