危機管理 日本に不信 原発で各国報道
2011年3月18日 朝刊
福島第一原発の事故をめぐり、米英など主要国のメディアでは、日本政府の危機管理能力を疑問視する見方が強まっている。政府の「隠ぺい体質」を指摘するメディアも多く、日本の安全神話に黄信号が点滅している。
◆米国 「指導力が欠如」
【ニューヨーク=青柳知敏】福島第一原発事故の混乱を踏まえ、日本の危機管理能力に強い懸念を示す米メディアが増えている。政治指導力の欠如や情報の不透明さを指摘し、日米の対応の違いを強調する報道が目立つ。
ワシントン・ポスト(電子版)は十六日、米国が原発から半径五十マイル(約八十キロ)圏に住む自国民に避難を求めたと速報。ワシントンで会見した米原子力規制委員会(NRC)のヤツコ委員長の発言が「日本政府や東京電力の認識よりも原発のダメージがひどいことを示唆した」とし、「日本政府が公表している情報の適切さについて、矢継ぎ早の質問が飛んだ」と伝えた。
CNNテレビは同日、東日本大震災の取材で派遣された人気キャスター、アンダーソン・クーパー氏が東京から中継し、「日本政府は原発事故に関する情報のすべてを民間の東京電力に頼っている」と指摘した。同時に、避難エリアを独自に広げた米国の判断を「率直だ」と評価し、日本政府に情報の透明性の確保を求めた。
ニューヨーク・タイムズ(電子版)は「日本の指導部の欠陥で危機が深刻化した」との分析記事を掲載。計画停電で事前情報の遅れが混乱を拡大させたことについて「菅直人首相や官僚は計画にタッチせず、すべて東電任せだ」と批判した。同紙は与党・民主党について「経験不足」で「官僚も不信感を抱いている」とした。
米メディアの取材は日系企業にも相次ぎ、ある機械メーカーは「日本からの輸入品の放射線は大丈夫なのか」と聞かれるなど、原発事故に質問が集中しているという。
◆英国 怒る福島の声掲載
【ロンドン=松井学】英有力紙インディペンデントは十七日、福島第一原発事故に対する日本政府の対応は「大惨事に対処できていない」と指摘、日本国内のみならず、国際原子力機関(IAEA)や各国政府など世界的にも不満が高まっていると報じた。
「私たちは見放されて死ぬのか」「『安全だ』と言う政府を信じた自分に腹が立つ」。朝刊無料紙メトロは、避難生活を送る福島県南相馬市の住民の怒りの声を一面で震える被災者の写真付きで掲載した。
英BBC放送は事故発生後、「首都圏から避難する必要はない」との専門家の見解を伝えるなど、比較的抑制された報道姿勢をとっていた。
しかし、十六日夜放送の看板番組「ニュースナイト」では、日本政府の担当者に英国人記者が「どの段階で東京に避難勧告を出す想定なのか」とインタビュー。政府側は「想定する段階ではない」「被ばくに敏感な日本国民が落ち着いている現状を見てほしい」といった返答に終始し、記者が顔をしかめる場面を映し出した。
英紙ガーディアンの東京特派員は大阪発の記事で「放射能に一度汚染されれば、除去には時間がかかる」と懸念を示した。
◆ロシア 楽観論を糾弾
【モスクワ=酒井和人】ロシアの有力経済紙「ベドモスチ」は十七日、福島第一原発での事故をめぐる日本政府の対応に「日本人は、自分のメンツを保つためにどんな対価でも払おうとしている」と酷評した。
同紙は菅直人首相らが根拠なく「放射能漏れの拡大はない」と楽観論を繰り返したと批判。旧ソ連時代のチェルノブイリ原発事故を引き合いに「政権の慎重さは信頼を損なう」とし国内外への正確な情報発信を求めた。
また有力紙「コメルサント」は同日、日本のインターネット上では、事故対策に当たっている東電の職員が「最後の五十人」などと賞賛されているが、外国人の反応は「無駄な努力」と冷ややかだと伝えた。
このほか、ロシアメディアでは、日本側が公表する放射線の測定値が「低すぎる」との専門家の疑念や、日本へ支援に向かったロシアの専門家が不透明な理由で入国を遅らされたなどと、日本の「隠ぺい体質」を示唆する報道が目立ち始めている。
一方、日本に近い極東では、一部テレビ局が地元での放射線の測定値を常時、公開するなどして、市民に冷静に行動するよう呼び掛けている。
ロ政権は今回の事故が原子力政策に波及することを懸念しメドベージェフ大統領らが原発の安全性を繰り返し訴えている。ロシアメディアの厳しい反応は事故拡大を日本の対応の誤りに矮(わい)小化したい政権の意図を反映している可能性もある。