マロニエの樹



一本の樹の下に少年がいた

その時も風が吹いて
柔らかな少年の髪を揺らした

少年は一人でいることのほうが多かった
いろんなことを夢見ていたから、それ以上何もいらなかった

一本の大きなマロニエの樹
サクランボのような実がひとつ
ポトリと彼の足下に落ちた

その時誰かに呼び止められたような気がして
少年はその実を手にとった
家にかえり スコップを手に再びその場所に来て
マロニエの樹のそばに穴を掘った
彼は 宝物のようにその実を埋めた

少年はそのことを忘れていた
10年が過ぎ
彼はもう少年ではなくなっていた

黙り込むことのほうが多くなった

ある仕事をやめてその場所を訪れた時
その樹の下に立った
その時も風が吹いて
流せない涙をさらった
説明のつかない孤独をとかした

マロニエの樹のそばには
あの時の少年の背丈くらいの
痩せ細った樹が生えていた

まるでいまの自分がそこにいるように

 


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